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最高裁判所第三小法廷 昭和55年(ク)101号 決定

抗告人

斉藤明子

右代理人

白取勉

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

民事事件について最高裁判所に特に抗告をすることが許されるのは、民訴法四一九号ノ二所定の場合に限られるところ、本件抗告理由を要約すれば、競売法二七条二項は利害関係人に対する競売期日の通知について、これを発することを要すと定めていて、利害関係人に対し到達することをその要件としていないが、競売物件の所有者のように物件の所有権を失うおそれがあつて競売の結果に重大な利害関係を有する者に対しては通知を現実に到達させこれを知らしめることが必要であり、同条二項の規定は憲法二九条一項に違反する、というのである。しかしながら、競売法による不動産の競売手続につきその開始決定がされた場合には、民訴法六四四条三項が、準用されて、裁判所は、職権をもつて競売物件の所有者に右開始決定正本を送達することを要するものと解すべきものであつて(大審院大正一三年(ク)第三七六号同年七月一七日決定・法律新聞二二九〇号二二頁参照)、下級裁判所における実務例もまたそのように運用されていることは当裁判所に顕著なところである(本件記録に徴すれば、本件においても、第一審裁判所は、昭和五二年一二月一三日に競売開始決定正本を抗告人に送達していることが認められる。)。また、競売法二七条一項は、競売が開始された事実を当然には知ることのできない同条四項三号及び五号所定の利害関係人に対しては開始決定をしたことを通知し、かつ、競売期日及び競落期日を定めて公告することを要するものと定めているのである。このような競売法の規定(競売法に準用される民訴法の規定を含む。)のもとにおいて、利害関係人に対し競売期日を通知するものとするかどうか、通知をするものとする場合にこれを発すれば足りるものとするかどうかは、もつぱら立法政策の問題であつて、憲法適否の問題ではないものというべきである。してみれば、違憲をいう所論はその前提を欠くものであつて、民訴法四一条ノ二所定の場合にあたらないと認められるから、本件抗告を不適法として却下し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のとおり決定する。

(横井大三 環昌一 伊藤正己 寺田治郎)

抗告人の抗告理由

右抗告人が為した東京高等裁判所昭和五五年(ウ)第四〇号競落許可決定に対する即時抗告の申立に対し、東京高等裁判所は抗告を却下し、その理由として、昭和五四年一二月一四日言渡しによつて抗告人に告知されたと述べております。

抗告人は右の告知を受けておりません。又抗告人は競落期日の通知を受けなかつたため右期日に出席出来なかつたのであり、それは浦和地方裁判所川越支部が行うべき手続を為さなかつたためであります。

右の理由に基いて、抗告人が競落許可決定のあつた事実を知つた日の当日に即時抗告の申立をしたのでありまして、抗告人と致しましては即時抗告の期間内に申立をしているのであります。

従つて、右東京高等裁判所の為した却下決定は明かに民事訴訟法第四一五条に違反するものであります。

抗告代理人白取勉の抗告理由書記載の抗告理由

特別抗告人は競売にかかる物件の所有者であり、競売法第二七条第四項第三号により利害関係人である。

競売の期日は、同法第二七条第二項により利害関係人たる特別抗告人に通知しなければならないことになつております。

然しながら特別抗告人は競売期日の通知を受けておらず、従つて競売期日に出頭することも出来ませんでした。然るに原審は、出席もしていない抗告人に告知されたと述べております。これは全く事実の認定を誤つたものであります。

特別抗告人は自己の財産が競落された事実を知つた当日に夜一一時三〇分頃に夜間受付に即時抗告の申立をしたのであつて、即時抗告期間内であることは明白であります。

よつて即時抗告の申立を却下した原決定は違法でありますので、その取消を求める次第であります。

同代理人の補正書記載の抗告理由

特別抗告人は、自己の所有にかかる不動産が競落された事実を知らないでいたのは、競売期日の通知を受けなかつたからである。

特別抗告人は知人より、自己の物件が競落されたらしいと知らされ、直ちに浦和地方裁判所川越支部に電話をし、その結果自己の物件が競落された事実を知つたのである。

そしてびつくりした特別抗告人は、右の事実を知つた当日に即時抗告をしたのであつて、特別抗告人としては自己の財産を守る意味で当然の措置をとつたものである。

浦和地方裁判所川越支部の書記官は、東京高等裁判所書記官の訴訟記録請求に対して、抗告期間徒過であるとして訴訟記録の送付を拒み、且つ、右高等裁判所の電話聴取に対し、特別抗告人には、普通郵便で競売期日の通知を発した旨回答している。

右は競売法第二七条第二項の「競売の期日は競売手続の利害関係人に対して、其通知を発することを要す」との規定に形式的に合致せしめた如くに回答したにすぎず、現実に特別抗告人が受取つていないのであるから、浦和地裁川越支部に於て、右の通知を発したか否かは不明である。

競売期日に於ては、物件の所有者は、自己の物件を失うおそれがあるものであつて、重大な利害関係を有するものであるから、少くとも裁判所は、単に通知を発するのみならず、通知を為さね(到達させる)ばならない。

憲法第二九条は財産権は、これを侵してはならないと規定する。

競売物件の所有者である利害関係人に対し、競売期日の通知を発すのみで足るとした競売法第二一条の規定は右の憲法第二九条に違反するものといわねばならない。

よつて、特別抗告の申立を為した次第である。

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